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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)11632号 判決 1987年8月27日

原告

吉本雄次郎

被告

新田交通株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金四九〇万七〇一〇円及びこれに対する昭和六〇年一月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一九二六万一一一〇円及びこれに対する昭和六〇年一月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年一月一一日午後二時二〇分ころ

(二) 場所 東京都板橋区板橋四丁目五三番五号先路上

(三) 加害車 事業用普通乗用自動車

右運転者 訴外関口次丸

(四) 被害車 原動機付自転車

右運転者 原告

(五) 態様 被害車が前記場所の交差点(以下、「本件交差点」という。)に板橋三丁目方面から進入したところ、左方の金沢橋方面から同交差点に進入してきた加害車と衝突した。

2  責任原因

被告は、加害車を自己のため運行の用に供していたものであるから、加害車の運行供用者として自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という)三条に基づき本件事故によつて原告が受けた人的損害を賠償する責任がある。

3  原告の損害

(一) 原告は本件事故のために左膝関節部打撲、左外側側副靭帯損傷、左外側半月板損傷の傷害を受け、この結果、左膝内反動揺性が残り、歩行時の不安定、歩行後左膝腫脹の症状が生じ、恒久的に膝関節の固定装具の着用を必要とする後遺症が残つた。

(二) 右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(1) 治療費 金六五万五七八〇円

(2) 入院雑費 金三万七〇〇〇円

(3) 通院雑費 金一万一五〇〇円

(4) 休業損害 金四六二万三九六六円

原告は、建築業を営み、大工として就労していたが、本件事故による傷害のため、昭和六一年二月末日まで就労することができなかつた。原告の事故前の所得については完全な資料が得られないので、賃金センサス昭和五九年第一巻第一表の男子労働者学歴計、年齢計、企業規模計の平均賃金(年収額金四〇七万六八〇〇円)を基礎に算定すると、一日当たりの収入額金一万一一六九円、休業日数四一四日であるから、休業損害は金四二六万三九六六円となる。

(5) 逸失利益 金一五七五万九〇五三円

原告の前記後遺症は少なくとも自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下、「別表」という)の八級六号(一下肢の三大関節中一関節の用を廃したもの)に相当し、労働能力の喪失割合は六七歳までの稼働期間一一年間を通じて四五パーセントに達するものというべきである。そして、中間利息を新ホフマン方式により控除して後遺症による逸失利益の現価を求めると金一五七五万九〇五三円となる。

(6) 傷害による慰藉料 金一七〇万円

入院三七日、通院二三四日。

(7) 後遺症慰藉料 金七〇〇万円

4  過失相殺による控除額 金八九三万六一八九円

本件事故について原告の過失割合が三割を超えることはない。

5  損害の填補 金三二九万円

6  弁護士費用 金一七〇万円

よつて、原告は、被告に対し、前記3の損害合計金二九七八万七二九九円から4の金八九三万六一八九円及び5の金三二九万円を控除した残額に6の金一七〇万円を加えた金一九二六万一一一〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六〇年一月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実はいずれも認める。

2  同3の事実について、(一)のうち、原告が主張の傷害を負つたことは認め、その余は否認する。(二)のうち、(1)は認め、(2)、(3)、(4)は不知、(5)は否認し、(6)は不知、(7)は否認する。

3  同4の事実は争う。

4  同5の事実は認める。

5  同6の事実は知らない。

三  過失相殺の抗弁

1  訴外関口が加害車を運転して進行した道路(以下、「関口進行道路」という)は、金沢橋方面から中仙道方面に向かう幅員約五・一五メートルの平坦なアスフアルト舗装の道路で、本件交差点において、板橋三丁目方面から加賀一丁目方面に向かう幅員約七・八メートルの平坦なアスフアルト舗装の道路(以下、「原告進行道路」という)と交差している。本件交差点は、見通しの悪い交通整理の行われていない交差点であり、原告進行道路の本件交差点手前には一時停止の道路標識が設置され、かつ、停止線が表示されている。本件事故現場付近の制限速度は、原告進行道路も関口進行道路もともに時速三〇キロメートルである。

2  訴外関口は関口進行道路を進行し時速約二五キロメートルの速度で本件交差点を直進しようとしたところ、折りから、加害車の進路前方を右方から左方に横断しようとした被害車が、加害車の右前部側面に衝突したものである。

3  ところで、本件交差点手前の原告進行道路には一時停止の道路標識が設置され、また、本件交差点は見通しの悪い交通整理の行われていない交差点であるのであるから、原告が本件交差点を通過するに当たつては、本件交差点の手前で一時停止し、左右の安全を確認して進行すべき注意義務及び減速徐行して進行すべき注意義務があることは明らかである。

4  しかるに、原告は本件交差点に進入するに当たり、一時停止もせず、交差点内の進路の安全を全く確認しないで、漫然時速約二〇キロメートルの速度で本件交差点を直進したものである。そして、原告が前記注意義務を果たしていれば、本件事故を回避できたことはいうまでもなく、本件事故の原因の大半は原告にあることが明らかである。したがつて、損害賠償額の算定に当たつては、右過失を斟酌してその額を大幅に減額すべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証、証人等目録記載のとおり。

理由

一  請求原因1及び2の事実はいずれも当事者間に争いがないから、被告は、自賠法三条に基づき本件事故によつて原告が受けた人的損害を賠償する責任がある。

二  原告の損害

1  原告が、本件事故のために主張の傷害を負つたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二ないし第五号証、第九号証の一、二、第一七、第二七号証、乙第四号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一一、第一二号証、第一五号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記傷害のため、本件事故当日の昭和六〇年一月一一日から同年一〇月八日までの間財団法人愛世会愛誠病院で診断治療を受け(入院三七日、通院実日数三七日)、同一〇月八日歩行時の不安定、歩行後左膝腫脹の後遺症を残して症状が固定したこと、このため原告は恒久的に膝関節の固定装具の着用が必要であること、そして、自動車損害賠償責任保険上、原告の右後遺症は別表の一二級七号該当の認定を受けていること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2(一)  治療費金六五万五七八〇円については当事者間に争いがない。

(二)  入院雑費 金三万七〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は、入院中一日金一〇〇〇円を下らない雑費を支出したものと認められる。

(三)  通院雑費 金〇円

通院雑費についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

(四)  休業損害 金二八四万七三九七円

原本の存在及び成立に争いのない甲第一八号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時大工として稼働していたものであり、少なくとも、賃金センサス昭和六〇年第一巻第一表の男子労働者小学・新中卒、年齢計、企業規模計の平均賃金(年収額金三八三万五三〇〇円)程度の収入を得ていたものと推認することができる。そして、前認定の原告の受傷内容及び治療経過に原告本人尋問の結果を合わせて考えると、原告は本件事故による受傷のため、本件事故当日の昭和六〇年一月一一日から症状固定日である同年一〇月八日までの二七一日を下らない期間休業を余儀なくされたものと認められるから、金二八四万七三九七円を下らない休業損害を被つたものと認められる。

(五)  逸失利益 金六三七万一五〇七円

前認定の後遺症の程度に原告本人尋問の結果(原告は、前記後遺症のため、現在、大工の仕事に相当程度の支障を来していることが認められる)を総合すれば、原告は、前記症状固定日の昭和六〇年一〇月八日から稼働可能と考えられる六七歳までの約一一年間を通じて、その労働能力の二〇パーセントを喪失し、右期間、同割合による所得の減少を来すものと推認することができる。そして、前認定の原告の所得額に右二〇パーセントを乗じ、同額からライプニツツ方式により中間利息を控除して、右一一年間の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、その金額は金六三七万一五〇七円となる。

(六)  慰藉料 金三〇〇万円

原告の受傷の内容、治療経過、後遺症の内容、程度等諸般の事情を総合すれば、原告に対する慰藉料としては金三〇〇万円をもつて相当と認める。

三  過失相殺

1  抗弁1(本件事故現場の状況)、2(原告の注意義務)の事実は当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない乙第一ないし第三号証、原告主張の写真であることに争いのない甲第九号証の一ないし九、証人関口次丸の証言及び原告本人尋問の結果を総合すれば、訴外関口は本件交差点に時速三〇キロメートル余りの速度で進入したこと、原告は本件交差点の手前で一時停止したものの、この場合関口進行道路を通行する車両の進行妨害をしてはならない(道路交通法四三条)のに、関口進行道路を通行する車両の有無等を確認せず、加害車の進入に全く気付かないまま、漫然と時速約一〇キロメートルの速度で本件交差点に進入し、その結果、本件事故が発生したものと認めることができ、原告本人及び証人関口次丸の各供述のうち右認定に反する部分は措信することができない。そして、右事実によれば、原告の過失を斟酌し、過失相殺として前記二2の損害の四割を減額するのが相当である。

四  損害の填補 金三二九万円

原告が本訴請求に係る損害の填補として、被告から金三二九万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

五  弁護士費用 金四五万円

弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、原告が本件事故による損害として被告に対し賠償を求めうる弁護士費用の額は金四五万円をもつて相当と認める。

六  結論

以上の事実によれば、本訴請求は、前記二2の損害合計額金一二九一万一六八四円に〇・六を乗じた金七七四万七〇一〇円から四の損害填補額金三二九万円を控除した残額金四四五万七〇一〇円に五の金四五万円を加えた合計金四九〇万七〇一〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六〇年一月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

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